「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方

「まるでその場に行ったことがあるかのような土地勘」。旅行好き、地理好きな皆さんには何とも魅惑的な響きではないでしょうか。私達が、近くでも遠くでも、国内でも外国でも、どこかに出かけて得られる財産の一つが「土地勘」だと思います。私は「田舎」在住なんですが、著名な場所の多い都市、例えば東京や大阪、ニューヨークやロンドンなどに出かけて来た後は「ここに行った。この範囲は土地勘ができた」と地図に赤ペンで囲みをいれるようなことをよくします。で、A街とB街が意外に隣り合っていたりすると、今度はAからBへ歩いて、全体感をつかんでみたいな、などと次のお出かけへの興味が湧いたりします。そうして土地勘のある領域同士が繋がり全体に広がると「～市は俺の庭」みたいな勘違いができる。これが楽しい。まあ、実際はそうそう出かけてばかりもいられませんが、「Googleストリートビュー」は出かけずしてそれを得るための強力な手段の一つでしょう。あの360度写真は見知らぬ街の土地勘を得るための視覚情報です。ただ、その地点で見える一瞬の静止画だけでは都市の全体像はつかみにくいとも思います。旅行者はまず駅前の写真から確認しますが、本書にもあるように、基幹駅の駅前がその都市の中心・繁華街とは限らなかったり。そこで本書が紐解く都市地図が役に立ちます。都市の全体像、それを構成する街々の様子をある種のパターンから想像することができる、その方法が解説されています。まあ読んだからすぐできるというものでもなさそうで、それなりの訓練は必要だと思いますが。私が特に面白いと思ったのが、日本の都市や街が江戸時代までの土台をベースに最近までにどのような道筋・パターンをたどって発展（あるいは衰退）してきたのかを全国の多彩な例（地図）を上手く参照しながら説明している第3部（あるいは第3章）の「土地勘から都市勘へ」です。私が土地勘のある都市もいくつか例に挙がっていて、こういう変遷をたどってこうなったのか、と納得できました。この部分、「ブラタモリ」的な地歴の面白さがありますが、実務的には、仕事で不動産取引や都市計画に携わる人にとっての必須の基礎知識だろうと思います。もちろん、自分がどこに住むか、どこにお店を持とうかと、考えておられる皆さんにも考えるヒントが満載です。