スマート・ジャパンへの提言―日本は限界費用ゼロ社会へ備えよ

本書は、著者の日本向けの著述や講演、インタビュー等を一冊にまとめた構成となっており、体系的に書かれたものではなく、重複する内容もある。しかし、繰り返し語られることで、著者の主張を理解しやすいという効果はあった。著者の考えは、以下の部分に分かりやすくまとまっていたと思うので、引用しておきたい。『歴史上の大きな経済のパラダイムシフトには、共通点があります。それは、三つの決定的なテクノロジーが同時期に出現し、掛け合わされることで、新たなインフラが構築されることです。そのテクノロジーとは第１に、経済・社会生活をより効率的にマネジメントするための新たなコミュニケーション・テクノロジー。第２に、より効率的に動力を供給するための新たなエネルギー源。第３に、より効率的な輸送／ロジスティクスを実現する新たなモビリティ形態です。つまり、コミュニケーション革命が新たなエネルギー体制と新たなモビリティ／ロジスティクス形態と連携することで、私たちの時間と空間に対する概念や環境、科学的・技術的イノベーション、ビジネスモデル、統治モデル、そして意識そのものをさえも、根本的に変えてしまうのです。例えば19世紀には、蒸気を動力とする印刷と電信、豊富な石炭、国の鉄道網を走る蒸気機関車が、シームレスな汎用テクノロジーのプラットフォームを編み上げ、経済活動をマネジメントして、第１次産業革命を起こしました。20世紀には、中央集中型の電力、電話、ラジオとテレビ、安価な石油、国の道路網を走る内燃エンジン自動車が一体となって、第２次産業革命のインフラを構築しました。こんにち、私たちはデジタル化された第３次産業革命インフラの先端にいます。高速の5Gデジタル・コミュニケーション・インターネットが、デジタル化された再生可能エネルギー・インターネットと、デジタル化されドライバーレスになっていく輸送／ロジスティクス・インターネットと一体になって、デジタルＩｏＴプラットフォームに乗って稼働し、経済・社会生活を根本的に変えようとしています。』（135ページ）また、この第３次産業革命は、気候変動へのレジリエンスの観点からも重要であると述べられる（太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーの発電・送電は、中央集中型ではなく分散型となるため、レジリエンスが高まる）。『私たちは制御できない激しい気候変動のためにまったく予測のつかない世界に突入していて－－アメリカは、先ごろ三つのハリケーンに襲われました－－深刻さはどんどん増すばかりです。いわばレジリエンスの時代、地球環境が大きな危機に見舞われているなかで、人類の英知で回復力を発揮しなくてはならない時代へと移行しているいま、この第３次産業革命の分散型システムは、気候変動へのレジリエンスを高めるという点でも不可欠なのです。』（105ページ）著者の主張はもっともであり、実際に世界はその方向に向かっていると思うが、日本においては、第２のエネルギー源の観点で議論がまだまだ深まっていないように感じる（化石燃料や原子力による発電が主流）。日本の未来を考える上で、避けて通れないテーマであり、持続可能な再生可能エネルギーへのシフトに取り組む必要があると感じた。そのためには、本書でも指摘されている通り、政府・企業・市民社会が協力してロードマップを作る必要がある。『各地域や州で、企業と市民社会と大学とが協力してプラットフォームを構築し、規制や条例や基準をつくることができなければ、新たなビジネスが起こることも、新たなモデルが組み入れられることもないからです。（中略）私たちには政府が必要です。企業が必要です。市民社会も必要です。私たちには公的資本が必要です。民間資本が必要です。社会関係資本も必要なのです。この三つのプレイヤーが平等な立場でテーブルにつかなければなりません。』（207ページ）本来、東洋には、自然との調和を大切にする思想があり、日本はその技術力とも相まって、世界をリードしていくポテンシャルがあるはずである。『人類が自然のなかに調和を見いだすという東洋の思想は、自然は征服され、使われ、利用されるためにあると考えるわれわれ西洋の思想よりもはるかに進んだ考え方です。したがって世界のエコロジカルなビジョンを前に進めていくために、東洋思想がますます脚光を浴びているのです。』（93ページ）未来を見据え、自分の立場で行動していきたいと思う。